信託もどき契約(困った危険な信託の事例)
■ 今や、家族信託は多くの人に認識され始め、その利用も急激に増加しています。
その中で、さまざまな分野の専門家が「家族信託は何でもできる。考えられるだけの、家族民事信託の組成が可能である」と称して、信託設定書の作成にかかわっています。これが信託口座開設のために金融機関に持ち込まれていますが、これを見る限り長期間活用できる家族信託の創造とは言えず、いわゆる「信託もどき約束ごと」に過ぎないもの(「信託」として、法的効力がないもの)も少なくないのです。
これが「信託もどき契約」です。
その実は専門家を名乗る者の家族民事信託に関する基礎的知識の欠落と生きた家族信託を創り出すことに関する問題意識の希薄さにその原因があるといえると思います。
■ 私は、一貫して「正しい信託の創造と誠実かつ適切な信託の運用」を訴えてきました。
実は、拙著「家族信託契約」の校正中の平成29年8月末、日本経済新聞朝刊に「相手から信頼されて資産を託された人は、誠実にその管理や運用をする責任がある――。金融業界などで意識され始めたこの考え方は、長い歴史を持っているようだ」「高い倫理観で信頼人応える責任のことを英語で『フィデューシャリー・デューティー』と呼ぶ。銀行は顧客本位の姿勢をみせようと、この言葉をタイトルに付けた経営方針を相次ぎ発表している」とのコラムが載ったのです。
このフィデューシャリー・デューティー(Fiduciary duty)に裏打ちされた信認関係(fiduciary relationship)は、家族民事信託においても最も大事な実務的要件であり、私のいう信託の説明の基礎となっているものなのです。
このことは、信託の制作等を依頼する人も、創造する人も、そして信託を託される人も忘れないでほしいとおもいます。
■ 金融機関に持ち込まれる事例の中には、一見有効のように見えるが問題が多い信託契約も少なくないようです。
そのような契約でも、すでに公正証書が作成されて不動産について信託登記も了されているので、いったん取り消して再契約するように促すことは難しいようです。
しかし、無効なものは、いかにもがいたとしても無効です。そこで問題はあるものの有効な信託契約であると判断できるのであれば、不適切な部分や不足している事項については信託の追加変更という手続を考えてもらうことになるのですが、これを拒む専門家がいて、金融機関では対応に苦慮しています。
■ 信託もどき事例、信託としては無効な事例は、拙著「家族信託契約」で数多く説明してあります。参考にしてください。